契約書における公序良俗

納得できない条件

個人や企業間で取り交わされる契約書は、基本的には民事不介入の原則により内容そのものが違法ということにはなりません。
どのように不平等な内容になっていたとしても、両者が合意をしていればその契約書は有効となり、仮に民事裁判になったとしてもその内容の公平さ云々が論点になることはないのです。
反対に言えば、一度取り交わした契約書の記載内容については、あとからどれほど不備不満があったとしても基本的にはそれを履行しなくてはならないという義務が発生するということです。
ですので、契約書を作成しお互いが署名捺印をする場合にはきちんと内容を確認しておくとともに納得できない条件などが付加されていないかといったことに注意していく必要があります。

ですがそんな個人間での取引のための契約書でも、内容によっては国家機関により制限を受けることがあります。
民法90条には公序良俗規定というものがあり、公の秩序又は善良な風俗に反する行為を禁止するとしています。
これは契約における「契約自由の原則」よりも強い効力を持つものであり、もしその契約内容によってトラブルが発生した場合に、契約そのものに違法性があるという場合には契約自体が無効というふうに取り扱われます。

公序良俗違反の例として

しかし民法90条の規定だけでは非常に曖昧であり、具体的にどのような行為が公序良俗違反になるかということは明確になっていません。
つまり自分たちとしてはそれまで習慣的に行ってきたことだったり、特に問題はないと思って交わしてきた契約が、その時の事情や世情により違法であると判定されることもあるということです。
よく公序良俗違反の例として挙げられるのが芸娼妓契約というものです。
芸娼妓とは未成年の女性に対し、その親などの保護者が交わす売春宿での雇用です。
現在の日本においては売春は違法となっていることと、そもそも未成年の人間を売買するということがかなり違法性が高いとして、契約そのものがなかった=売買契約・雇用契約は無効と判断されます。
江戸時代などにはそうした芸娼妓としての契約はごく当たり前になされてきたことであるので、昔の感覚ということで言えば「何が悪いの?」というふうになるのかもしれません。

他にも公序良俗違反となる例としては、依頼殺人や不倫関係持続のための扶養契約、詐欺行為や強迫行為を伴う契約締結なども挙げられています。
公序良俗の判断基準は世論の変化と密接に関係しているのです。